LONG LIFE STORY寿命 30年〜

ハリントンジャケット——バラクータG9という定番のかたち

ゴルフのために考えられた丈の短い上着が、90年近く大きく形を変えずに作られています。雨を流す背中のつくりやタータンの裏地、映画やドラマとの縁から、「定番」が長く生きる理由を見ていきます。

/ FURUGI LOOP 編集部 / 長生きした服の物語

腰までの短い丈、リブ編みの袖口と裾、ボタンで留める小さな襟。古着屋のアウターの棚で、この組み合わせを見かけることは少なくありません。裏返すと赤いチェックの裏地が現れる一着もあります。ハリントンジャケットと呼ばれるこの上着の原型が、イギリスのバラクータというメーカーの「G9」です。

ゴルフのための短い上着

バラクータは、ジョン・ミラーとアイザック・ミラーの兄弟が、イギリス北部のマンチェスターで始めた会社です。兄弟はもともとレインウェアの製造に携わっており、ほかの有名ブランド向けにコートをつくっていたと紹介されています。

ゴルフを楽しんでいた兄弟は、丈の長いレインコートではスイングの邪魔になると考え、腕を大きく動かせて、クラブハウスでも失礼にならない短い上着を考えました。こうして1937年に生まれたのがG9です。名前の「G」はゴルフを指し、「9」は9ホールにちなむとされています。前ポケットは斜めに付けられ、ゴルフボールを2個入れられる大きさに考えられていたという説明もあります。

背中で雨を流すつくり

G9の特徴としてよく挙げられるのが、背中の上部に重ねられた「アンブレラ・ヨーク」です。傘のように布を一枚かぶせ、その下に通気のための隙間をとることで、雨を体から外側へ流しながら、蒸れを逃がすつくりになっています。レインウェアの会社らしい発想といえるかもしれません。

リブ編みの袖口と裾は風の入りこみを抑え、2つボタンの襟は立てて首元を守ることができます。どの部分も飾りのためではなく、屋外で体を動かすための理由があって付けられているように見えます。以前紹介したM-65のように、機能から決まった形は、時代が変わっても古びにくいのかもしれません。

雨を流す背中、風を止める袖口。理由のある形は、流行が変わっても残ります。

タータンの裏地と、借りものの名前

1938年、ミラー兄弟はスコットランドのフレーザー氏族の長であるロヴァット卿に願い出て、氏族のタータンを裏地に使う許しを得たとされています。表は無地で控えめ、裏を返すとタータンが見えるという組み合わせは、ここから始まりました。

「ハリントン」という呼び名は、じつはメーカーが付けたものではありません。1964年に放送が始まったアメリカのテレビドラマ『ペイトン・プレイス』で、ライアン・オニールが演じたロドニー・ハリントンという人物がこの上着をよく着ていたことに由来するとされています。その後、ロンドンで洋服店を営んでいたジョン・サイモンズが、店のウィンドウでこの上着を「ハリントン・ジャケット」と紹介したことで、名前が広まったと伝えられています。今では、バラクータ以外の同じ形の上着も含めて、ハリントンと呼ばれるようになっています。

いろいろな時代の人に着られてきた

G9は映画とも縁の深い上着です。エルヴィス・プレスリーは1958年の映画『闇に響く声(King Creole)』で、スティーブ・マックイーンは1968年の『華麗なる賭け(The Thomas Crown Affair)』で着用したことが知られています。

イギリスでは、モッズやスキンヘッズ、パンク、スカといった若者文化の中でも好んで着られてきたと紹介されています。1990年代のブリットポップの時代にも、あらためて人気が高まったようです。ゴルフ場の紳士、映画スター、街の若者と、着る人が入れ替わっても、形はほとんど変わっていません。

G9は今もイギリスで作られています。90年近く同じ形が作り続けられているということは、古着として見つけた何十年も前の一着と、新品の一着が、ほぼ同じ姿で並ぶということでもあります。流行から外れない服は、着る人が変わっても役目を終えにくく、次の持ち主へ渡っていきやすいように思います。古着屋でハリントンを見つけたら、背中のヨークと裏地を確かめてみると、その一着が歩いてきた時間が少し見えてくるかもしれません。

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