フェアアイル——シェトランドの島で編まれた模様
人口およそ60人の小さな島の名前が、世界中で知られる編み模様の名前になりました。1段に2色だけという決まりや、羊の毛そのものの色から、模様が長く受け継がれてきた理由を見ていきます。
秋が近づくと、古着屋のニットの棚に、細かな幾何学模様が帯のように並ぶセーターやベストが増えてきます。ひし形や十字、波のような模様が何段も重なった編み込みは、フェアアイルと呼ばれることが多いようです。この名前は、スコットランドの北にある一つの島の名前から来ています。
60人の島の名前
フェアアイルは、スコットランド北部のオークニー諸島とシェトランド諸島のあいだに浮かぶ小さな島で、シェトランド諸島の一部とされています。シェトランド本島からは約24マイル(約39km)離れ、暮らしている人は約60人と紹介されています。1954年からはスコットランド・ナショナル・トラストが島を所有しています。
この島で編まれてきた多色の編み込みが、フェアアイル・ニットの始まりです。1690年代にはすでに「さまざまな色の編み地」についての記録があり、1760年ごろには、島の人たちが近くを通る船と編み物をやりとりしていたとされています。スペインの無敵艦隊の船が1588年に島で難破し、その船員から模様が伝わったという話もよく知られていますが、これは裏付けのない言い伝えと考えられています。バルト海方面の船との交易の中で技法が入ってきた可能性を挙げる説もあり、はっきりした起源はわかっていません。
1段に2色だけ、という決まり
伝統的なフェアアイルには、いくつかの特徴があります。使う色は5色ほどに抑え、1つの段で使う色は2色だけ。筒状にぐるぐると輪に編み、同じ色が長く続かないように模様を組み立てます。使っていない方の糸は裏側に渡して編み進めるため、生地は二重のような状態になります。細い糸でも、軽くて暖かく、丈夫な服ができるのはこのためだとされています。
1段は2色でも、段ごとに色を入れ替えることで、全体では多くの色が使われているように見えます。複雑なものでは10色近くになることもあるそうです。前開きや袖ぐりの部分も輪のまま編んでおき、あとから切り開く「スティーク」という方法が使われることもあります。
羊の色と、島の草の色
フェアアイルの色は、もともと羊の毛そのものの色から始まっています。シェトランドの羊の毛には、黒、濃い灰色(シャエラ)、薄い灰色、茶色(ムーリット)、淡い黄褐色(エーシット)、生成りの白など、さまざまな色があり、島の女性たちはこれを使い分けてきたと紹介されています。
そこに、島の外から物々交換で手に入れたインディゴで青を、茜の根と島に生える地衣類で赤を、島に自生する植物で黄色を加えていったとされています。記録では、1878年には島の店が茜などの染料を仕入れていたことがわかっています。身近にある色から始まった模様だからこそ、どこか落ち着いた色合いになっているのかもしれません。
流行と、島に残る編み手
フェアアイルが広く知られるきっかけになったのは、1920年代初めに、のちのエドワード8世である当時のプリンス・オブ・ウェールズが、フェアアイルのセーターを着て人前に出たことだとされています。ゴルフ場で着ている姿も写真に残り、流行が一気に広がりました。一方で、1920年代にはすでに、フェアアイルとして売られるニットの多くが島やシェトランドの外で作られるようになっていたといわれます。
今、フェアアイル島で編み物を主な仕事にしている人は4人ほどとされ、イギリスの伝統工芸を記録する団体は、この島のニットを「危機にある」工芸として挙げています。住まいの不足や担い手の高齢化などが理由として紹介されています。
それでも、フェアアイルの模様は島の外でも編み続けられ、古着屋には何十年も前に編まれた一着が並んでいます。二重に編まれた生地は丈夫で、小さな穴ならダーニングで直しながら着ることもできます。模様が受け継がれるということは、同じ編み方を知っている人がいて、同じ服を大切に着る人がいる、ということなのかもしれません。古着屋でフェアアイルを見つけたら、1段に何色使われているか、数えてみるのもおもしろいと思います。
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