ボロ——捨てられなかった布の200年
寒さと貧しさが生んだ継ぎ接ぎが、いま世界の美術館で展示されている。「もったいない」の到達点。
おしゃれの話をする前に、少しだけ「数字」の話におつきあいください。ふだん服を選ぶとき、あまり意識することのない——服の「量」の話です。
日本では、1年間におよそ35億着の服が新しく供給されています。赤ちゃんからお年寄りまで、1人あたり年間およそ28着分。そこで動くお金は、約9兆円にのぼります。
さらに古着などのリユースまで含めると、市場はもう1.3兆円ほどふくらみます。いま日本で「服」をめぐって動いているお金は、合わせておよそ10兆円という規模です。
そして世界に目を向けると——1年間に生産される服は、およそ1,000億着。地球に暮らす約80億人の全員に、毎年12着ずつ配れてしまう量にあたります。
おしゃれは、もちろん楽しいものです。ただ、これだけの服が「どこから来て、どこへ行くのか」を知っておくと、1着の選び方が少しだけ変わってくるかもしれません。まずはズームアウトして、量の全体像から見てみましょう。
日本の年間供給量を人口で割ると、1人あたりおよそ28着分の服が毎年新しく供給されている計算になります。
約30年前は「約15兆円で約20億着」でした。いまは「約9兆円で約35億着」。使うお金は3分の2に、服の量はほぼ倍に——1着あたりの値段は、およそ3分の1になっています。
日本の35億着ですら、世界から見ればほんの一部。これだけの服が、毎年新しく生まれています。
では、これだけ作られた服は——そのあと、どこへ行くのでしょうか。
1日あたりにすると約1,300トン——大型トラック約130台分の服が、毎日焼却・埋め立てされています。
リユースに回るのは、およそ3分の1。売る・譲る・回収ボックスに入れる、で変えられる数字です。
ペットボトルをおよそ255本つくるのと同じくらいの排出量にあたります。
Tシャツ1枚の後ろには、これだけの水が流れています。
買う量に手放す量が追いつかず、毎年およそ6着ずつクローゼットに増えていく計算になります。
クローゼットの中で出番を待ったまま、1年が過ぎていく「着ない在庫」たちです。
出典:廃棄量・1人あたりの数値は環境省「サステナブルファッション」調査(2022年度推計)、国内供給量は日本繊維輸入組合の推計(約35億点)、市場規模は矢野経済研究所などの調査(2023〜24年)、世界の生産量はエレン・マッカーサー財団などの推計より。数値は年度や推計方法によって変動します。 → env.go.jp/policy/sustainable_fashion
新しい服を作ることが悪いわけではありません。ただ、すでにある服を1着選ぶと、新品1着分の製造に使われるはずだったCO₂や水を、そのまま使わずに済ませることができます。
手持ちの服を1年長く着るだけで、日本全体では約4万トンの廃棄削減につながるといわれています。「長く着る」ことも、立派な行動のひとつです。
古着は、環境のためだけに着るものではありません。一点ものとの出会いがあり、物語があり、かっこいい。環境への貢献は、あとからついてくる「おまけ」くらいでちょうどいいのかもしれません。
でも、服はもともと「捨てる」という選択肢のない道具でした。
100年生きた服と、1年で役目を終える服。その違いを見にいきましょう。
服にも寿命があります。それを決めるのは素材の強さではなく、「直せるか」「受け継げるか」という設計。この棒の長さを、くらべてみてください。
いちばん下の棒、見えたでしょうか。それが、いま私たちがいちばん多く買っている服の寿命です。
長生きした服には、ちゃんと理由があります。次は、その物語を。
なぜこの服は50年残ったのか——ヴィンテージの名品と民族衣装を「生存理由」から読み解く連載。毎日すこしずつ増えていきます。
年代でシルエットも色落ちも別物。「劣化」を「エイジング」と呼び替えた最初の服の生存戦略を追う。
読む → 寿命 30年〜弱点対策の発明がそのまま頑丈さになった。機能から生まれたディテールは流行に消されない、という話。
読む → 寿命 50年〜立ち襟に収納されたフード、4つの大容量ポケット。デザインの理由がすべて説明できる服の強さ。
読む → 寿命 30年〜シングルステッチ、ボディの銘柄、ツアー年。ただのプリントTシャツが「記録」になった瞬間の経済学。
読む → 寿命 50年(未使用)倉庫で眠り続けた新品。「着られなかったこと」が最大の価値になるという、寿命の変わり種を考える。
読む → 寿命 〜100年解けば反物に戻る、だから何度でも仕立て直せる。100年着る前提で設計された服の構造を見る。
寒さと貧しさが生んだ継ぎ接ぎが、いま世界の美術館で展示されている。「もったいない」の到達点。
古いサリーを何枚も重ねて刺し縫いする。ベンガル地方の「服の二度目の人生」の仕組み。
工場から店頭、クローゼット、ゴミ袋まで。いちばん短い寿命の服の一生を、生まれてから最後まで見届ける。
日本で毎日焼却・埋め立てされる服、大型トラック約130台分。その数字を1着ずつに分解してみる。
世界の民族衣装は「直しながら、世代を超えて着る」設計になっています。廃棄問題の答えは、実は昔の服が先に出していたのかもしれません。
直線裁ちで縫われているから、解けば1枚の反物に戻る。仕立て直しで体型も世代も超え、最後は座布団・雑巾まで使い切る。
貴重な麻布を継ぎ足し、刺し子で補強しながら親から子へ。継ぎの重なりが結果として独自の美になった。
縫い目のない1枚布だからサイズが存在しない。古くなったら何枚も重ねて刺し縫いし、キルトや産着に転生する。
アルパカやリャマの毛を手で紡ぎ手で織る。柄には村や家族の記憶が織り込まれ、布そのものが記録になっている。
着られなくなった服の端切れを縫い合わせて毛布にする。ゲーズベンドのキルトは現代アートとして評価されるまでに。
オヒョウの樹皮から繊維を取り、糸を績み、布を織るところから自分たちの手で。文様には魔除けの意味が宿る。
着ることだけが答えではありません。直す・作り変える・売る・発信する——個人でできる「服の寿命を延ばす」方法を集めました。
ボタン付け・裾上げ・ダーニング(飾り繕い)。穴を隠すんじゃなく、カラフルな糸であえて見せるのが今っぽい。針と糸だけで始められる。
大きすぎるTシャツを切って結ぶ、シャツを2枚組み合わせる、デニムをバッグにする。元が数百円の古着なら、失敗を恐れず気軽に実験できます。
色あせた白Tやシミのついたシャツは、ベンガラ染めや藍染めで再生。鍋ひとつでできる家庭染色キットも豊富。シミは柄で隠すという発想。
メルカリ・ラクマで手放すのも、立派なループのひとつ。実寸を測って明るい場所で撮るだけで売れ方が変わります。「捨てる」の前に、一度試してみてください。
今日の古着コーデ、タグの年代調査、購入品紹介。古着は「語れる服」なので、発信との相性がとてもいいんです。このサイトのようにWebでまとめるのもおすすめです。
間借り古着屋、フリマ出店、ネットショップ(BASE/STORES)。古物商許可を取れば仕入れ販売もできます。週末だけの小さな古着屋から始める人が、いま増えています。
データの一次情報から、探す・学ぶ・眺めるまで。
このサイトの廃棄データの出典。服の環境負荷の一次情報はまずここ。図解も豊富。
MAP全国の古着屋を地図から探せる老舗サイト。旅先での古着屋検索に便利。
CULTUREパルコによる定点観測メディア。ストリートファッション研究の視点から古着ブームを追える。
BUY&SELL売る側としての入口に。相場チェック(同じアイテムの売り切れ価格検索)にも使える。
MAGAZINE古着・アメカジ好きの定番雑誌。年代判別やブランド史の特集はアーカイブ級の資料価値。
GLOBAL海外の古着売買アプリ。世界の古着相場やスタイリングの流行を眺めるだけでも面白い。