リバースウィーブ——「縮むから横に編む」が生んだ40年選手
洗うたびに縮む。ただそれだけの不満を解決するために、生地の向きを90度回した人がいました。弱点をつぶすための発明が、そのまま「長生きする服」の設計図になっていきます。
古着屋のスウェットの棚には、ときどき妙に厚い1着が混ざっています。手に取ると、まず重さに驚きます。脇に太いリブが縦に走っていて、襟も裾も、へたっているようでいて形が崩れていません。1980年代や90年代のチャンピオン——リバースウィーブと呼ばれるスウェットです。30年、40年と着られてなお現役でいられる服は、いったい何が違うのでしょうか。
始まりは「洗うと縮む」という不満でした
チャンピオンの前身は、1919年5月にニューヨーク州ロチェスターで創業したニッカーボッカー・ニッティング・ミルズという会社です。1924年にチャンピオン・ニットウェア・ミルズとして法人化され、大学の運動部にスウェットやトレーニングウェアを納めていました。
ところが当時のスウェットには、大きな弱点がありました。綿の編み地は、洗濯すると丈がどんどん縮んでいくのです。とくに大学のチームは大量のウェアをまとめて洗います。数シーズンも経てば、袖も丈も足りない服が山になる。「これでは着られない」という現場の声は、そのまま服の寿命の話でもありました。
生地を90度、回してみる
1930年代前半、この問題に取り組んだのが同社のセールスマン、サミュエル・フリードランドという人物でした。彼が出した答えは、素材を変えることでも、加工を足すことでもありません。生地の目の向きを90度回す——ただそれだけでした。
編み地は、縦の方向に大きく縮む性質があります。ならば縦に使っていた生地を横向きに使えばいい。縮む力の向きを、丈ではなく身幅のほうへ逃がしてしまうという発想です。「逆に(リバース)織る(ウィーブ)」という名前は、ここから来ています。1938年8月9日には「Athletic Shirt And Method of Making The Same」として特許が認められました。
脇のリブは、飾りではありません
ただ、生地を回せば今度は横方向の縮みが気になります。その対策として加えられたのが、脇に入る縦一本のリブ(サイドパネル)でした。1952年10月14日、フリードランドとウィリアム・ファインブルームによる2度目の特許「Athletic Garment Or The Like」で、この構造が形になっています。
伸縮するリブを脇に差し込むことで、横の縮みを吸収し、同時に腕を上げたときの窮屈さもやわらぐ。つまりリバースウィーブの見た目上のいちばんの特徴は、デザイナーが引いた線ではなく、縮みという課題の答えそのものだということになります。理由のあるディテールは、流行が変わっても消える理由がありません。
弱点対策が、そのまま頑丈さになりました
ここが、この服のおもしろいところです。「縮まないように」と考えて厚手の生地を選び、力のかかる脇を別パーツで補強し、丈夫な編み方をしたら、結果として簡単には壊れない服ができあがってしまった。長持ちを目的にしたわけではなく、不満を1つずつ潰していったら長持ちしていた、という順番です。
着古したリバースウィーブは、たしかに色は褪せますし、袖口は毛羽立ちます。けれど身頃が伸びきってだらしなくなったり、縫い目から裂けたりということが起きにくい。表面は変わるのに、構造は変わらない。この性質は、そのまま「古着として売り買いされる資格」になります。中古で成立する服とは、次の人が着ても形が残っている服のことだからです。
読める服は、捨てられにくい服です
もうひとつ、この服が長く残っている理由があります。年代によってタグの仕様やプリントが変わってきたため、古着の世界では1着ごとの製造年代を推し量る文化が育ちました。年代の判別には諸説あり、ここで断定的な見分け方をご紹介することはしませんが、大切なのは「読もうとする対象になった」という事実のほうです。
読める服は、ただの中古品ではなく資料になります。資料は捨てられにくい。リーバイス501もそうでしたが、長生きする服にはたいてい、丈夫さと「読み解く楽しみ」の両方が備わっています。
次に古着屋で厚手のスウェットに出会ったら、脇のリブに触れてみてください。そこにあるのは装飾ではなく、90年前の誰かが「縮むから着られなくなる」という問題に出した答えです。服を長く着るための工夫は、意外と昔からずっと続いています。
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