LONG LIFE STORY寿命 50年〜

M-65——機能だけで設計された服は死なない

1965年に米軍へ採用されたフィールドジャケットが、60年後の古着屋にふつうに並んでいます。この服にはひとつも「なんとなく付いているパーツ」がありません。それが、長生きの理由のようです。

2026-08-30 / FURUGI LOOP 編集部

古着屋のミリタリーコーナーで、オリーブ色のジャケットを手に取ったことがある方は多いと思います。襟が高く、胸と腰に大きなポケットが4つ。袖口と襟には面ファスナー。それがM-65フィールドジャケット、正式には「M-1965」と呼ばれる、米軍が1965年に採用した野戦用の上着です。

おもしろいのは、この服のディテールを指さして「これは何のため?」と聞いたとき、すべてに理由の答えが返ってくることです。装飾のためのパーツが、ひとつもありません。

すべてのディテールに、答えがある

M-65は、第二次大戦期のM-1943、そして朝鮮戦争前後のM-1951という先行モデルの改良の先に生まれました。前のモデルからの大きな変更点は、防寒を考えて高くなった立ち襟です。そしてその襟の中には、ファスナーで開くとフードが収納されています。雨が降ったら引き出し、要らないときは襟に収めておく。「持ち歩かなくていい雨具」を服そのものに内蔵した設計です。

胸と腰に付いた大きなポケットは、地図や装備を入れるため。袖口と襟の面ファスナーは、隙間から風雪が入るのを止めるため。M-65は、ベルクロ(面ファスナー)を早い段階で本格採用した一般向け衣料のひとつだったとされています。ウエストと裾のドローコードは、体格差を吸収し、風の通り道をふさぐため。見た目のために付いているものが、ひとつもないのです。

流行のために生まれていない服は、流行が終わっても、終われない。

生地は「濡れても乾く」ための選択

初期のM-65にはコットン主体のサテン生地が使われ、1966年ごろからはコットンとナイロンをおよそ半々で混ぜた、通称NYCOと呼ばれる生地が多く使われるようになりました。ナイロンの乾きやすさと強度に、コットンの風合いと熱に強い性質を組み合わせる——これも見た目の都合ではなく、屋外で何日も過ごす人のための判断です。

結果として、この生地はとても丈夫です。60年前に作られた個体がいまも着られている理由の、かなりの部分がここにあります。ただし古い実物には、生地に張りがなくなったものや、ファスナーの傷んだものもあります。古着屋で選ぶときは、ファスナーの動きと、袖・脇の擦れをまず見ておくと安心です。

「重ね着する前提」という発想

M-65のもうひとつの特徴が、内側のボタンでライナー(中綿の内張り)を着脱できることです。寒ければ入れる、暑ければ外す。1着で一年の大半をまかなうための、いわば分割式の設計になっています。

服の寿命という視点から見ると、これはかなり重要な発想です。季節ごとに別の服を買うのではなく、1着を分解・再構成して使い回す。しかもライナー側が先にへたっても、シェル(外側)はそのまま使えます。壊れる部分と壊れない部分が分かれている服は、全体をまとめて捨てずに済みます。

シルエットが四角く、体に密着しないのも同じ理由です。中に何を着るか分からないので、あらかじめゆとりをとってある。結果として、体型が変わっても、流行のインナーが変わっても、着続けられる服になりました。

約40年、仕様が大きく変わらなかったということ

M-65は、MIL-C-43455という軍の仕様書に基づいて作られました。仕様書がある、というのは古着の世界ではかなり特別なことです。作り手が変わっても、年が変わっても、同じ設計図に沿って作られる。だからこそ、ポケットの形やタグの表記といった細部から製造年代を読み解く楽しみも生まれました。

そして米軍がM-65の支給を終えたのは、2000年代後半のこととされています。採用から40年以上、同じ系統の服が現役だったことになります。毎年デザインが更新される服とは、時間の流れ方がまるで違います。

「意味のある形」は捨てにくい

1970年代以降、M-65は映画の中で繰り返し使われ、軍の外へ出ていきました。ミリタリー由来のジャケットとして街に定着し、いまでは古着屋の定番のひとつです。もともと戦場のために作られた服が、まったく違う場所で着続けられている——そのこと自体は、複雑な気持ちにもなる事実です。

それでも、服の寿命を考えるうえでM-65が教えてくれることははっきりしています。ひとつひとつの形に理由がある服は、理由がある限り古びないということ。逆に言えば、私たちがすぐ手放してしまう服の多くは、「なぜこの形なのか」を説明できない服なのかもしれません。

新しい服を買うのが悪いわけではありません。ただ、次に1着を選ぶとき、そのポケットやボタンに「何のため?」と聞いてみてください。答えが返ってくる服は、たぶん長く付き合えます。

出典・参考: M-1965 field jacket — Wikipedia(英語) / M65(フィールドジャケット) — Wikipedia
掲載時点の情報です。年代判別や仕様の変遷には諸説ある場合があります。
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