平均1年で捨てられる服の一生を追う
この連載では60年生きたデニムや200年生きた布を追ってきました。今回は逆に、いちばん短い一生を追います。1年という時間軸で、1着の服に何が起きるのかを見てみましょう。
古着屋に並ぶ服は、どれも「捨てられなかった服」です。何度も持ち主が変わり、直され、それでもまだ着られている。けれど、そこに並ばなかった服のほうが、実際にはずっと多いはずです。この記事では、統計に残っている数字だけをたどって、短い一生をおくる1着の姿を組み立ててみます。誰かを責めるためではなく、自分のクローゼットを開けるときの解像度を少し上げるためです。
誕生——1着に、水およそ2,300リットル
服は工場から始まります。綿を育て、糸を紡ぎ、布を織り、染め、縫い、運ぶ。環境省の資料によれば、服1着がつくられるまでに排出されるCO2は約25.5kg、使われる水は約2,300リットルと推計されています。2,300リットルは浴槽およそ11杯分にあたるそうです。
この数字が示しているのは、服がまだ一度も着られていない段階で、すでにそれなりの負荷を背負って生まれてくるということです。だからこそ、新しい服が悪いという話にはなりません。すでに払われた負荷を、できるだけ長く回収する——服の一生を考えるというのは、つまりそういうことだと思います。
クローゼット——半分近くが、眠っている
店頭を経て、服はクローゼットに入ります。ここが一生でいちばん長い区間になるはずなのですが、実態は少し違うようです。環境省によると、家庭にある衣類のうち使用されているものは約55%、残りの約45%は使われずにしまい込まれているとされています。
さらに、1人あたりの年間の枚数はこう推計されています。購入する服が約19着、手放す服が約11着、そして一度も着られていない服が約24着。買う数が手放す数を上回っているので、クローゼットは毎年少しずつ厚くなっていきます。そして厚くなるほど、奥の1着は見えなくなります。
別れ——手放し方で、行き先が変わる
いつか、その1着を手放す日が来ます。ここが一生の分岐点です。環境省の調査では、服を手放す手段の内訳は可燃ごみ・不燃ごみとしての廃棄が約55%、行政回収・資源回収が約19%、古着として販売が約18%、店頭等での回収が約5%、譲渡・寄付が約3%とされています。
つまり、半分以上の服は、そのままごみ袋に入ります。逆に言えば、手放し方を変えるだけで、同じ1着の行き先が変わるということでもあります。ここでの選択には、特別な知識も費用も必要ありません。袋を分ける、という程度の話です。
その先——1日およそ1,300トン
手放された服全体の行方も、数字が出ています。リユース(海外への輸出を含む)が約35%、リサイクルが約7%、そして焼却等での処分が約58%。この処分にまわる量は、日本国内で1日あたり約1,300トンと推計されています。大型トラックにしておよそ130台分が、毎日燃やされたり埋められたりしている計算です。
1年で終わる服の一生は、ここで閉じます。2,300リットルの水を使って生まれ、クローゼットで半分の時間を眠り、55%の確率でごみ袋に入る。これが特別に不幸な1着ではなく、統計上ごくふつうの1着だというところが、この話のいちばん重い部分だと思います。
一生を、少しだけ延ばす
60年生きるデニムと、1年で終わるTシャツ。違いは服の側の性能だけではなく、持ち主が「まだ続く」と思えたかどうかにもありそうです。直せば続く、譲れば続く、古着屋に持っていけば誰かの手元で続く。逆に、しまい込んだまま忘れれば、それが終わりになります。
クローゼットの奥で眠っている約45%のうち、1着でも表に出せば、その服の一生は今日から少し延びます。古着屋で1着を選ぶことも、同じ延長のしかたです。新しい服を買わないという話ではなく、すでにこの世界にある服を、最後まで使い切る。短い一生を追いかけてみて残ったのは、そのくらいシンプルな結論でした。