Tシャツ1枚の水——服が使っている見えない資源
乾いた1枚のTシャツにも、つくられる過程で浴槽十数杯分の水が使われているとされています。畑から店頭までの見えない水の量と、その行き先を数字でたどります。
Tシャツを1枚手に取ったとき、そこに水の気配を感じることはほとんどありません。乾いていて、軽くて、たたむと手のひらほどになります。けれど、この1枚ができあがるまでには、畑でも工場でも、かなりの量の水が使われているとされています。この記事では、服の見えない資源である「水」について、裏付けのある数字をたどってみます。
1枚あたり、約2,500〜2,700リットル
よく引用されるのが、WWF(世界自然保護基金)が紹介しているコットンTシャツ1枚に約2,700リットルという数字です。これは、1人が飲む水のおよそ2年半分にあたるとされています。
この種の推計のもとになっているのが、「ウォーターフットプリント」という考え方です。オランダの研究者チャパゲインとフックストラらが2006年に発表した論文では、綿製品の生産に使われる水を国ごとに積み上げて評価しました。ウォーターフットプリント・ネットワークはこうした研究をもとに、250グラムほどのコットンTシャツ1枚で約2,500リットルと紹介しています。
また、日本の環境省は服1着あたりの水の使用量を約2,300リットルと推計しています。数字は算定の範囲や方法によって少しずつ異なりますが、いずれも「浴槽10杯分以上」という規模感は共通しているようです。
水の大半は、畑で使われている
水がどこで使われているのかを見ると、この数字の意味が少し変わってきます。綿は育つ過程で多くの水を必要とする作物で、ウォーターフットプリントの大部分は栽培の段階にあるとされています。
先の2006年の論文では、世界の綿製品の消費に使われる水を3つに分けています。灌漑のために川や地下水から汲み上げる「ブルーウォーター」が約42%、雨水として土に染み込み作物が使う「グリーンウォーター」が約39%、そして染色や加工で汚れた水を薄めるのに必要な量として換算された水が約19%です。また、綿の消費は世界の水使用量の約2.6%を占めると推計されています。
つまり、Tシャツ1枚の水は、蛇口から出た水をそのまま使っているというより、遠く離れた綿花畑の雨や川の水が、布のかたちになって届いているものだと言えそうです。
川を細らせた畑——アラル海の記憶
綿と水の関係でよく取り上げられるのが、中央アジアのアラル海です。NASAによれば、アラル海はかつて世界で4番目に大きい湖でした。1960年代、当時のソ連は砂漠を農地に変えるため、湖に注ぐアムダリヤ川とシルダリヤ川の水を灌漑に回し、その主な作物のひとつが綿花でした。
灌漑によって砂漠に作物が実った一方で、湖は縮み続けました。南アラル海の東側の湖盆は2014年に完全に干上がったとされています。漁業とそれに頼っていた地域は衰退し、塩分を含んだ砂ぼこりによる健康や土壌への影響も伝えられています。一方、北アラル海では2005年に堤防が完成したのち水位が回復しており、手を打つことで状況が変わりうることも示されています。
ジーンズなら、さらに多く
生地の多い服ほど、使われる水も増えます。UNEP(国連環境計画)は、ジーンズ1本の生産に約7,500リットルの水が使われると紹介しています。デニムはこのサイトでも「長く生きる服」の代表として取り上げてきましたが、長く着ることの価値は、こうした数字と並べるといっそう分かりやすくなります。
すでに使われた水を、無駄にしない
ここで大切なのは、コットンの服を買うことが悪いという話ではない、という点です。水はすでに畑で使われ、服のかたちになっています。問題になるのは、その服がほとんど着られないまま手放されることのほうだと思います。1年で捨てられても、30年着られても、生まれるときに使われた水の量は同じです。
古着を選ぶことは、新しく水を使わずに服を手に入れる方法のひとつです。手持ちの服を直して着続けること、着なくなった服を次の人に渡すことも、同じようにすでに使われた約2,700リットルを、最後まで使い切ることにつながります。次にTシャツをたたむとき、その重さに少しだけ水の重みを足して感じてみるのもよいかもしれません。
掲載時点の情報です。数値はいずれも推計値であり、内容には諸説ある場合があります。