「安いから買う」の値段——毎日焼かれる服の内訳
服の値段は、この30年ではっきり下がりました。ではその分、何が安くなったのでしょうか。値札に乗った金額と、乗らなかった費用を、公的な統計で並べてみます。
古着屋で1,500円のシャツを買うとき、「安く買えた」と思います。同じ気持ちは、新品の店でセールの札を見たときにも起こります。安いことは、買う側にとってはほとんどいつでも良いことです。ただ、その安さがどこから来ているのかを数字で追いかけると、服の寿命の話とまっすぐつながっていました。今回は1着の値段から始めて、毎日焼かれている約1,300トンまでを、順番にたどってみます。
6,192円だった服が、3,211円になった
環境省がまとめている「衣服一枚あたりの価格推移」によると、日本で買われる服1着の平均価格は、1990年の約6,192円から、2024年には約3,211円になったとされています。34年で、およそ半分です。この間に物価そのものは上がった時期もありますから、体感としては半分よりもっと安くなっている、という方も多いかもしれません。
安くなった理由はひとつではないようです。生産の効率が上がった分もありますし、海外での生産が一般的になった分もあります。経済産業省の資料では、2022年の衣料品の輸入浸透率は数量ベースで98.5%とされています。私たちが手に取る服は、ほぼすべてが海を渡ってきた服だということになります。
安くなったのに、市場は縮んだ
ここからが少し不思議なところです。値段が半分になったなら、同じお金で倍の枚数が買えるはずで、市場全体の金額は保たれてもよさそうに思えます。けれど実際は違いました。国内に供給される服の点数は、1990年の約20億点から2022年には1.8倍以上に増えた一方で、衣料品等の国内市場規模は1991年の約15.3兆円をピークに減少し、その後は横ばいが続いています。
枚数は増え、金額は減る。この二つが同時に起きているということは、1枚あたりの価値が下がる速さのほうが、枚数が増える速さより大きかったということになります。売る側から見れば、同じ売上を立てるためにより多くの枚数を作らなければならない、という状態です。
値札に乗らなかった費用
財務省の広報誌に載ったコラムは、この構造をかなり率直に書いています。環境負荷の根源にあるのは需要をはるかに上回る商品を製造するという商慣習であり、1枚あたりの生産コストを低く抑えようとする力が働くことが、低賃金や長時間労働といった労働環境の問題にもつながっている、という指摘です。さらに、企業はセールを前提に定価へマークアップを乗せているとも言われている、とも書かれています。
環境の側の費用も、値札には乗っていません。環境省の推計では、服1着をつくるまでに約25.5kgのCO2が排出され、約2,300リットルの水が使われるとされています。この負荷は、3,211円の服でも6,192円の服でも、大きくは変わらないはずです。つまり値段が半分になったからといって、地球の側の請求書が半分になったわけではありません。
内訳——1日およそ1,300トン
作られた服の最後です。環境省によれば、服がごみとして出されるなどしてリユース・リサイクルされず、焼却・埋め立て等で処分される量は年間で約46万トン。1日あたりにすると大型トラックおよそ130台分、重さにしておよそ1,300トンにあたります。
そしてその理由も調べられていて、可燃ごみ・不燃ごみとして捨てる理由の多くは、「手間や労力がかからない」からだとされています。悪意ではなく、面倒だから。ここが正直な内訳だと思います。安く買えた服ほど、手放すときに手間をかける理由が見つけにくい——値段の安さは、買う瞬間だけでなく、捨てる瞬間の判断にも効いているのかもしれません。
半分の値段なら、倍の時間を
ここまでの数字を並べると、「安い服を買うのをやめましょう」という結論になりそうですが、そうは思いません。値段が下がったことで、服を選ぶ自由が広がった面は確実にあります。問題は値段そのものではなく、安い服を、安い期間しか着ないことのほうにありそうです。
もし1着あたりの価格が30年で半分になったのなら、着る期間を倍にすれば、1年あたりに使う服の量は元に戻ります。直す、譲る、古着屋に持っていく、そして古着で買う。どれも、すでに払われた25.5kgと2,300リットルを使い切るための方法です。古着屋の値札には、その分の費用がもう含まれていません。安く買えるという意味では、これも立派な「安いから買う」だと思うのです。
掲載時点の情報です。数値はいずれも推計値であり、内容には諸説ある場合があります。