カンタマント——手放した服が着く市場
回収ボックスに入れた服は、その先どこへ行くのでしょうか。行き先のひとつに、西アフリカ・ガーナの首都アクラにある巨大な古着市場があります。
アクラの中心業務地区に、カンタマント・マーケットと呼ばれる市場があります。細い通路に数千の露店がひしめき、並んでいるのはほとんどが古着です。現地で市場の支援を続けている非営利団体 The Or Foundation は、ここを世界最大の古着市場と説明しています。
ガーナでは、輸入された古着を「オブロニ・ワウ(obroni wawu)」と呼びます。「死んだ白人の服」という意味です。まだ着られる服がこれほど大量に届くのは、持ち主が亡くなったからに違いない——そう考えられたことが由来だと語られています。
毎週、約1,500万着が届く
The Or Foundation の推計では、カンタマントには毎週約1,500万着の古着が届きます。出どころはイギリス、ヨーロッパ、北米、オーストラリアなど。多くは寄付や回収で集められ、国内で売れ残ったものが選別と売買を重ねたうえで、圧縮された梱包(ベール)として海を渡ってきます。
ベールはひとつ約55キログラム。狭い通路では台車が使えないため、「カヤエイ」と呼ばれる若い女性の運搬人が頭に載せて運びます。同団体は、この仕事が背骨に深刻な負担を与えているという調査結果も公表しています。
開けてみるまでわからない商売
小売業者はベールを仕入れ、中の服を仕分けて売ります。ただ、中身は開けてみるまでわかりません。質のよい服が入っていれば利益になりますが、汚れや破れのある服、もともと長く着られる作りではない服が多ければ、そのまま損になります。
The Or Foundation の共同創設者リズ・リケッツ氏は2021年の寄稿で、利益を出せている小売業者は約2割にとどまり、仕入れのために年利約35%の借り入れをする人も多いと書いています。現地では「ギャンブルの仕事」とも呼ばれているそうです。
直す人たちと、残る約4割
それでもカンタマントは、服を捨てる場所ではなく、生かす場所として動いてきました。約3万人が週6日、服を売り、繕い、洗い、仕立て直していると同団体は伝えています。裾を詰め、ボタンを付け替え、デニムを別の形に縫い直す。ここで寿命を延ばされる服はたくさんあります。
ただ、どれだけ手を尽くしても再販できない服が残ります。同団体の推計では、市場に入った服の約4割がごみとして出ていくとされています。市場の外れで燃やされたり、非公式な処分場に運ばれたりし、一部はコレ・ラグーンや海岸に流れ着きます。浜辺では、砂に絡まった衣類が長い帯のようになっている様子が報じられています。
2025年1月2日には大規模な火災が起き、市場13区画のうち10区画が被害を受けました。約3万人の暮らしがここにかかっていることが、あらためて知られるきっかけにもなりました。
手放す前に、もう一度だけ見る
日本でも、毎日およそ1,300トンの衣類が焼却・埋め立てされていると環境省は推計しています。国内で行き場を失った服の一部が、形を変えて海の向こうへ渡っているのかもしれません。
寄付や回収が悪いわけではありません。新しい服を買うことが悪いわけでもありません。ただ、手放した服は消えるのではなく、どこかに着く。そこには仕分ける人、運ぶ人、直す人がいます。手放す前にボタンを一つ付け直す、洗ってから出す、そもそも長く着られる服を選ぶ。そうした小さな手間が、服の行き先を少しだけ軽くするのだと思います。
掲載時点の情報です。内容には諸説ある場合があります。