洗濯で流れる繊維——マイクロファイバーという見えない排出
ポリエステルやアクリルの服は、洗濯のたびに目に見えないほど細い繊維を排水へ流しているとされています。どのくらいの量で、どこへ行くのか。わかっていることと、まだわかっていないことを分けて整理します。
洗濯機のふたを開けると、乾燥機のフィルターや排水口に綿ぼこりのようなものが溜まっていることがあります。服は着ているあいだだけでなく、洗っているあいだにも少しずつ削れていきます。そのうち、合成繊維から出る非常に細かな繊維はマイクロファイバーと呼ばれ、マイクロプラスチックの一種として研究が進められてきました。今回は、洗濯で流れる繊維について、数字が確認できたことだけを順番に見ていきます。
洗濯1回で、数十万本という推計
よく引用されるのが、英国プリマス大学のイモジェン・ネイパー氏とリチャード・トンプソン氏による2016年の研究です。ポリエステル、アクリル、ポリエステルと綿の混紡という3種類の布を、30℃と40℃、洗剤や柔軟剤の組み合わせを変えて洗い、排水に含まれる繊維を調べました。
大学の発表によると、一般的な6kgの洗濯1回あたりの推計は、アクリルで約72万8,789本、ポリエステルで約49万6,030本、混紡で約13万7,951本とされています。「洗濯1回で70万本以上」という見出しを見かけることがありますが、これはもっとも多かったアクリルの値です。素材によって数倍の差があり、同じ合成繊維でもひとくくりにはできないことがわかります。
海に届くマイクロプラスチックのうち、どのくらいか
欧州環境機関(EEA)が2022年に公開した資料では、海に流れ出る一次マイクロプラスチック(はじめから小さな粒や繊維として排出されるもの)のうち、合成繊維の衣類に由来する割合は、欧州で約8%、世界では約16〜35%と推計されています。量にすると、世界で年間約20万〜50万トンが海へ流れているとされています。
ここで少し注意が必要なのは、「海のマイクロプラスチックの35%は服から」という言い方です。この数字は、海のプラスチック全体ではなく、一次マイクロプラスチックの排出に占める割合の推計の上限にあたります。幅の大きい推計であることも含めて、見えない排出を正確に測ることの難しさを表している数字だと思います。
また、下水処理場では繊維の多くが取り除かれますが、すべてではないとされています。EEAによれば、高度な処理(三次処理)ではマイクロプラスチックを最大約98%取り除けるものの、そうした施設につながっているEUの世帯は約56%にとどまるそうです。取り除かれた繊維は汚泥に移り、その汚泥が肥料として使われることもあるため、扱い方が課題として挙げられています。
排出は「最初の数回」に集中する
EEAの資料で印象的なのは、合成繊維の服は、最初の5〜10回の洗濯でもっとも多くの繊維を出すという指摘です。製造のときに生まれた短い繊維の切れ端が、はじめの洗濯で一度に抜けていくためと考えられています。
そのうえで資料は、短い期間で着られなくなる服ほど、全体の中で「最初の洗濯」の割合が大きくなるため、排出への寄与も大きくなると述べています。同じ1年でも、1着を長く着て洗い続けるのと、新しい服を次々に下ろして洗うのとでは、流れる繊維の量が変わってくる可能性がある、ということです。すでに何度も洗われてきた古着は、この「最初の数回」を通り過ぎた服だと言えるかもしれません。
ほかにも、長時間・高温の洗濯や粉末洗剤は排出を増やしやすく、縦型の洗濯機はドラム式より多く出すという研究がまとめられています。なお、天然繊維も繊維くずは出しますし、植物由来のポリエステルも生分解されるわけではないため、素材を替えれば解決するという単純な話でもないようです。
洗濯機フィルターという対策と、その難しさ
対策のひとつとして注目されてきたのが、洗濯機の排水に取りつけるフィルターです。EEAは、フィルターで排出を最大約80%減らせたという研究を紹介しています。フランスでは2020年の「循環経済のための廃棄物対策法(AGEC法)」第79条で、2025年1月以降の新しい洗濯機に繊維の流出を抑える装置をつけることが定められました。
ただ、この義務は施行のための政令が出てはじめて効力を持つ仕組みで、2026年3月の仏国民議会の議員質問でも、政令がまだ公布されていないことが取り上げられています。フィルターの手入れを誰がどう続けるのか、回収した繊維をどう処分するのかといった点も含めて、仕組みづくりはまだ途中のようです。
見えない排出に対して、個人ができることは限られています。それでも、洗う回数や温度を少し見直すこと、そして1着を長く着ることは、どれも繊維を流さずに済む方向に働きます。服の寿命を延ばすという話は、捨てる量だけでなく、洗濯機の排水口の先にもつながっているようです。
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