LONG LIFE STORY寿命 色とともに

藍——褪せることが価値になる染め

ほとんどの服は、色が抜けた時点で寿命を迎えます。ところが藍で染められた布だけは、色が抜けたところから値段がつきはじめます。

/ FURUGI LOOP 編集部 / 受け継がれる布・民族衣装

古着屋でデニムの棚を見ていると、色の濃いものより、腿や膝のあたりが白く抜けたものに高い値がついていることがあります。作業着として売られた服が、擦り切れかけたところで評価される。これは色落ちを欠点としない、ほとんど唯一の染めだからです。藍は、抜けることまで含めて設計されている色だと言ってもいいかもしれません。

水に溶けない色を、無理やり溶かしている

藍染めの仕組みは、ほかの染色と少し違います。青の正体であるインジゴという色素は、そのままでは水に溶けません。溶けない染料は繊維に入っていけないので、染める前にいったん還元して、水に溶ける「ロイコ体」と呼ばれる状態に変えます。この液に布を浸し、引き上げて空気に触れさせると、酸化してもとの溶けない青に戻る。繊維の上で色が再び固まることで、はじめて染まるという段取りです。

染め上がりが黄緑から青へ変わっていくのは、この酸化が目の前で起きているからです。天然藍の場合、この還元を薬品ではなく微生物の力で行います。染液のなかで菌が働いている状態を保つ必要があるので、職人が甕の温度や状態を見続けることになります。生きているものを相手にしている、と言われる理由です。

色が抜けるのは、表面にしか乗っていないから

インジゴは分子が大きく、繊維の芯まで入り込みにくい染料だと説明されます。デニムの場合はこの性質を積極的に使っていて、糸の外周だけを染め、中心は白いまま残します。断面がリング状になることから「リング染色」と呼ばれる状態です。

だから、履いて擦れた場所から表面の青が削れ、下から白い芯が出てくる。膝や腿にアタリが出るのも、財布の形が尻ポケットに残るのも、その人がどう動いたかが、そのまま色として記録されているからです。ほかの染色ではこうはなりません。中まで均一に染まった布は、色が抜けるとき全体がのっぺりと薄くなるだけで、跡は残らないのです。

褪せることが情報になる染め。だから、古いほうが新しいものより欲しがられます。

6,200年前から、人は青を着ている

藍の歴史は、思っているよりずっと古いようです。2016年に『Science Advances』で発表された研究では、ペルー北海岸の遺跡ワカ・プリエタから出土した綿布を分析したところ、約6,200年前のものから植物由来のインジゴが検出されたと報告されています。エジプトで確認されている最古の藍の使用より、およそ1,500年さかのぼるとされます。

日本では徳島の「阿波藍」が知られています。タデアイの葉を乾かし、寝床と呼ばれる場所に積み上げて水を打ち、切り返しながら約100日かけて発酵させると、蒅(すくも)という黒い土のような染料になる。ここまでにおよそ1年がかかると徳島県は説明しています。藍の積み出しの記録は1445年の『兵庫北関舩入納帳』にすでに残っていて、栽培面積は1903年に約15,000ヘクタールでピークを迎えたとされています。

1874年に来日した英国人化学者ロバート・ウィリアム・アトキンソンが、街にあふれる藍色の衣服に驚いて「ジャパン・ブルー」と書き残した、という話が伝わっています。当時は、特別な布ではなく普段着の色だったということでしょう。

安くなった青と、残った青

その状況を変えたのは化学です。アドルフ・フォン・バイヤーが1880年に合成法の特許を取得し、その後カール・ホイマンらの経路が確立されて、BASFが1897年から合成インジゴの工業生産を始めたとされています。青は劇的に安くなり、世界中のデニムが染められるようになりました。いま私たちが着ている藍色のほとんどは、この合成インジゴです。

合成か天然かで優劣をつける話ではないと思います。ただ、どちらであっても藍は「完成品として売られない色」である点は変わりません。買った日がいちばんきれいな服ではなく、履いた年数だけ表情が変わる服として扱われる。手入れの方法も、色を守る方向ではなく、落ち方を整える方向で語られます。

褪せていい服は、捨てられにくい

服を手放す理由を思い出してみると、破れたからよりも「くたびれて見えるから」のほうが多いのではないでしょうか。色が褪せた、毛羽立った、新品と並べると古く見える。見た目の劣化は、機能が残っていても寿命の宣告になります。

藍染めの服は、この基準の外側にいます。褪せた状態が正解として認められているので、古びることが手放す理由になりにくい。何年か着たあとに染め直すという選択肢も残っていて、色が抜けきったら入れ直せばまた続きが始まります。日本では毎日およそ1,300トンの衣類が焼却・埋め立てされていると環境省は推計していますが、そのなかに「機能はあるのに古く見える」という理由で捨てられた服がどれだけ含まれているかは、想像するしかありません。

新しい服を買うことが悪いわけではありません。ただ、変わっていくことを前提に作られた色が数千年も生き延びてきたのは、たぶん偶然ではないのだと思います。褪せることを許した布だけが、長く着られてきた。古着屋の白く抜けたデニムは、その結論のようなものです。

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