ポンチョ——一枚の布を切らずに着るという発想
真ん中に頭を通す穴があるだけの、一枚の布。裁たず、縫い合わせず、体に合わせない。単純な作りだからこそ長く着られる服の成り立ちをたどります。
ポンチョをひろげると、ほとんど布そのものです。四角い一枚の生地の真ん中に、頭を通すための切れ目がある。袖はなく、脇も縫われていません。服というより、着られるようにした布、と言ったほうが近いかもしれません。この単純さは、手を抜いた結果ではなく、布をどう扱うかという考え方から生まれたもののようです。
語源は「毛布」や「織物」
ポンチョという言葉は、ケチュア語の「punchu」、あるいはマプドゥングン語の「pontro」に由来するとされています。いずれも毛布や織物を指す語で、もともと衣服の名前というより、布そのものを指す言葉だったことがうかがえます。
形の定義もごく簡素です。最も単純なかたちのポンチョは頭を通す開口部がある一枚の大きな布で、多くの場合、縫い合わせがありません。アンデス地方やメキシコ盆地、パタゴニアなどでは、ヨーロッパ人が到来する以前からこうした衣服が使われていたと考えられています。
裁たないのではなく、裁つ必要がない
ポンチョを理解するうえで欠かせないのが、アンデスの織りの考え方です。この地域の織り手は、布を織ってから裁断して服にするのではなく、できあがった衣服の寸法そのままに布を織り上げるという方法をとってきました。
こうして織られた布は、四つの辺すべてが織りの端(耳)になります。「四辺耳布(four-selvaged cloth)」と呼ばれるもので、織機から外せばその時点で完成しており、切り落とされた端がどこにもありません。子ども用の衣服でも、儀礼用の大きな布でも、最初に経糸を用途に合わせて計画し、そのとおりの寸法に織り上げるのだと説明されています。アンデス高地では、この裁たない布が数千年にわたってつくられてきたとされています。
裁断しないことは、単なる技法の違いにとどまらないようです。アンデスをはじめとする先住民文化の世界観と深く結びついた作法として受け継がれてきた、と紹介されています。
馬に乗るための服として
いま私たちが思い浮かべるポンチョについては、17世紀初頭に、チリ南中部からアルゼンチン南西部に暮らすマプーチェの人々が、馬に乗るための衣服として生み出したという説が紹介されています。上から被るだけなので馬上でも着脱しやすく、厚く織られたウールは暖かく、雨も通しにくかったといいます。
マプーチェの織物は古く、1300〜1350年ごろの遺跡から精緻な文様の織物が見つかっています。素材はもともとラマやアルパカなどラクダ科の獣毛でしたが、スペイン人が羊を持ち込んだのち、羊毛が次第にその役割を担うようになったとされています。織るのは女性の仕事とされ、その技術は母から娘へ、祖母から孫娘へと家族のなかで受け継がれてきました。
できあがったポンチョは、身内の男性への贈り物であると同時に、交易品でもありました。19世紀のポンチョは馬数頭、あるいは最大70キロほどのマテ茶と交換できたと記録されています。一枚の布が、それだけの価値を持っていたということです。
いまの服は、布の約15%を捨ててから始まる
現代の服づくりは、基本的にこの逆です。反物から型紙どおりにパーツを裁ち、縫い合わせて立体にします。体の形に合う代わりに、型紙のあいだには必ず使われない部分が残ります。カリフォルニア大学サンタバーバラ校ブレン校の2024年の報告では、裁断の段階で出る端切れなどにより、生地の約15%が製品になる前に埋立や焼却に回っていると推計されるとしています。
ポンチョや、直線裁ちの着物のような服は、この段階でのロスがほとんど出ません。さらに、脇を縫っていない服はサイズが体型に強く縛られないため、体格が変わっても、着る人が替わっても、そのまま使えます。傷んだときも、平らな一枚布なので繕いやすい。単純な作りであることが、そのまま長持ちにつながっているように見えます。
形が決まっていない服の強さ
ポンチョはその後、防水布やゴム引きの素材を得て、雨具としても広く使われるようになりました。アメリカ陸軍では1850年代から使われはじめ、南北戦争の時期には雨具と寝具を兼ねる装備として正式に採用されています。素材が変わっても、「一枚の布に頭を通す」という基本の形はほとんど変わっていません。
2,000年近く前のペルー・パラカスの遺跡から出土した布が、乾燥した気候のなかで色や細部を残したまま現在に伝わっているように、一枚の布はとても長く生き延びることがあります。服を捨てる理由の多くは、破れたからではなく、合わなくなったからです。体型が変わった、流行が変わった、気分が変わった。形をきっちり決めない服は、その理由の多くをはじめから引き受けずに済んでいるのかもしれません。
いま持っている服をポンチョに作り替える必要はありません。ただ、服を選ぶときに「この形は、5年後の自分にも着られるだろうか」と一度考えてみると、買う枚数も、手放す枚数も、少し変わってくるように思います。
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