MA-1——空軍のフライトジャケットが街着になるまで
古着屋の定番になっているナイロンのジャケット、MA-1。もとは1950年代、ジェット機に乗る飛行士のために作られた軍服でした。裏返すと現れるオレンジ色の裏地など、細部に残る理由を見ていきます。
古着屋のアウターの棚で、セージグリーンのつるりとしたナイロンジャケットを見かけることがあります。首・袖・裾にニットのリブがつき、ふっくらと中綿が入った短い丈のジャケット。MA-1と呼ばれる、アメリカ軍のフライトジャケットです。いまでは街着としてすっかりなじんでいますが、その細部の多くは、空の上で働く人のために決められたものでした。
ジェット機の時代に生まれたナイロンのジャケット
MA-1が開発されたのは1950年代とされています。プロペラ機の時代、飛行士は厚い革のジャケットを着ていました。けれども、革は高い空で濡れると冷えて凍りつくことがあり、重さもあります。ジェット機が登場して操縦席の環境や求められる動きが変わると、より軽く、それでいて暖かい服が必要になりました。
そこで使われたのがナイロンです。ナイロンは第二次世界大戦の前に発明され、戦時中はパラシュートなどに使われていましたが、飛行服に使われるようになったのは戦後のことだといわれています。MA-1は、表地にナイロン、中にポリエステルなどの中綿をはさんだ、季節を問わず着られる中くらいの厚さのジャケットとして設計されました。最初は米空軍と米海軍の飛行士や搭乗員に支給され、陸軍の航空要員にも少数が渡ったとされています。
B-15からMA-1へ——襟が毛皮からリブになった理由
MA-1のもとになったのは、B-15というフライトジャケットです。B-15は、はじめは綿で、のちにナイロンで同じ型紙のまま作られていました。ただ、B-15の襟には毛足のあるウールのボアがついていて、これが装備のストラップなどの邪魔になることがあったようです。
MA-1では、この襟がニットのリブに置きかえられました。首まわりがすっきりして、ほかの装備と干渉しにくくなります。古着のMA-1を見分けるときにまず目に入るリブの襟は、こうした実用上の理由から選ばれたかたちだと考えられます。
MA-1の仕様はMIL-J-8279という軍の規格で定められ、改訂のたびに末尾のアルファベットが進んでいきました。1978年11月にF、1988年3月と1990年10月にGとその修正版が出されたと記録されています。古着のタグに書かれたこの規格の表記は、年代を推しはかる手がかりのひとつになっています。
裏返すとオレンジ——見つけてもらうための色
MA-1の裏地は、あざやかなオレンジ色です。軍の正式なMA-1はリバーシブルになっていて、スナップ留めのポケットやファスナーの引き手は、どちらの面でも使えるように作られていました。
この色には理由があります。飛行機が不時着したり、搭乗員が救助を待ったりするとき、ジャケットを裏返して着ると、目立つオレンジ色が表に出ます。森や海の上でも捜索する人から見つけやすくするための、迷彩とは反対の役割を持った色でした。表地は、それ以前の濃紺から変わったセージグリーンです。
軍の倉庫から、ヨーロッパと日本の街へ
MA-1を作っていた会社はいくつかありますが、なかでもよく知られているのがアルファ・インダストリーズです。同社は1959年にテネシー州ノックスビルで創業した軍需メーカーで、公式の沿革によれば、1963年にMA-1などの外衣の製造契約を初めて受けました。のちには民間向けにも販売し、ヨーロッパの空軍や一般の買い手にも届くようになったとされています。
街着としての人気は、1970年代の終わりごろ、イギリスのパンクやモッズ、スキンヘッドといった若者たちのあいだで広がったといわれています。1980年代には『The Face』や『i-D』といったスタイル誌にも登場しました。その後、日本を含む各地で、軍服というより定番のアウターとして着られるようになっていきます。
流行が去っても残るかたち
MA-1には、飾りのために付いた部分がほとんどありません。リブの襟と袖口は風を防ぎ、短い丈は座った姿勢でも邪魔になりにくく、ナイロンの表地は軽くて扱いやすい。どれも働く場面から決まった形なので、流行の波が何度か過ぎても、基本のかたちはほとんど変わらずに作られつづけています。
古着のMA-1を長く着るには、リブの伸びやほつれ、ファスナーの不具合を早めに直すことがたいせつです。リブは交換できる部品なので、縫製の修理を受けている店に相談する方法もあります。
新しいジャケットを買うことが悪いわけではありませんが、すでにある一着を選べば、ナイロンを作り、縫い上げるための負荷を使わずに済みます。古着屋でMA-1を見つけたら、一度裏返して、オレンジ色の裏地を確かめてみてください。
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