マッキントッシュ——ゴム引きの布から生まれた雨のコート
イギリスでレインコートを「マック」と呼ぶのは、ある化学者の名前に由来しています。2枚の布のあいだにゴムを挟んだ防水布が、どのようにして200年近く続くコートになったのかを見ていきます。
古着屋のアウターの棚で、表面にさらりとした張りがあり、裏地を見ると縫い目の上にテープが貼られているコートを見かけることがあります。ゴムで防水した布を使った、いわゆるゴム引きコートです。イギリスではレインコートのことを「マック(mac)」と呼ぶことがありますが、この呼び名は、防水布を考案した人物の名前からきています。
マッキントッシュの名前は、スコットランドの化学者から
その人物は、スコットランド・グラスゴー生まれの化学者チャールズ・マッキントッシュ(Charles Macintosh、1766〜1843年)です。彼は石炭タールを蒸留して得られるナフサという液体に天然ゴムが溶けることに注目し、ゴムを溶かした液を布に塗って、もう1枚の布を重ねるという方法を考えました。2枚の布のあいだにゴムの層を挟むことで、水を通さない布になります。
この方法は1823年に特許として認められたとされています。英国のヴィクトリア&アルバート博物館は、ゴムを使った防水加工として初めて成功した製法の特許だと紹介しています。そして翌1824年には、この布を使ったコートが世に出たといわれています。
なお、人名の綴りは「Macintosh」ですが、コートやブランドの名前としては「k」を加えたMackintoshの綴りが定着しています。
におい・こわばり・べたつきという弱点
生まれたばかりのゴム引きの布には、扱いにくい面もありました。強いにおいがあり、寒いと硬くこわばり、暑いとゴムが柔らかくなってべたついたり溶けたりしたと伝えられています。
この弱点の改善に関わったのが、マンチェスターでゴム製品を手がけていたトーマス・ハンコックです。1830年にはマッキントッシュの会社とハンコックの会社が一つになり、マンチェスターの工場で衣類が作られるようになりました。ハンコックは1843年に、ゴムに硫黄を加えて熱を通す加硫の方法で特許を取り、温度による変化に強いゴムが使えるようになったとされています。
手で縫い目をふさぐ、いまのつくり
会社はその後、1925年にダンロップの傘下に入るなど持ち主を変えていきました。1990年代半ばには、スコットランド・カンバーノールドにあった工場が閉鎖の寸前までいったといわれています。その後、工場の幹部たちが会社を引き継ぎ、ゴム引きのコートを上質なブランドとして立て直しました。2003年に社名が正式に「Mackintosh」となり、2007年には東京の八木通商が買収しています。
ブランドの説明によると、いまのコートには、2枚の綿布をゴムで貼り合わせたボンデッドコットンが使われています。裁断した布を縫い合わせたあと、ゴムの溶液を指で縫い目に塗って貼り合わせ、押さえ、さらに防水のテープを手で貼って縫い目から水が入らないようにしています。脇には空気を通すための小さな鳩目も付けられます。手間のかかる工程のため、一年に作られる数は多くないと紹介されています。
古着のゴム引きコートを長く着るために
ゴム引きのコートは、形がシンプルで流行の影響を受けにくい服です。縫い目がテープでふさがれているため、生地と縫製が傷んでいなければ、長く雨具として使い続けることができます。古着で選ぶときは、裏側のテープが浮いたりはがれたりしていないか、生地にべたつきや硬化がないかを見ておくと安心です。
ゴムは熱に影響を受けやすい素材です。手入れの方法は洗濯表示やブランドの案内を確認し、高温の乾燥機やアイロンの熱を避けて、風通しのよい場所で保管するのがよいとされています。
新しく買うことが悪いわけではありませんが、すでにある一着を選べば、新たに布を織り、ゴムを貼り合わせる負荷を使わずに済みます。雨の多い季節に、誰かが着てきたゴム引きのコートを探してみるのもよいかもしれません。