ネルシャツ——起毛した綿が温める冬の定番
冬になると古着屋の棚に増えるのが、チェック柄のネルシャツです。もとはイギリス・ウェールズの毛織物の名前でした。表面をけば立たせたやわらかな布が、どのように作業着や日常着になったのかを見ていきます。
寒くなり始めると、古着屋のシャツの棚には厚手のチェック柄のシャツが並びはじめます。手に取ると表面がふんわりと毛羽立っていて、普通の綿のシャツよりも温かく感じられます。日本ではネルシャツと呼ばれることが多いこのシャツは、どのような布から生まれたのでしょうか。
「ネル」はフランネルの略
ネルシャツの「ネル」は、フランネル(flannel)を略した呼び方です。フランネルは、織った布の表面を起こして毛羽立たせた、やわらかな生地を指します。毛羽のあいだに空気を含むため、肌触りがふっくらとしていて、保温性があるとされています。
フランネルという言葉そのものの語源ははっきりしておらず、ウェールズに由来するという説があるとされています。フランネルに近い布は、16世紀にはすでにウェールズでよく知られていたといわれています。もともとは綿ではなく、目の粗い毛織物でした。
ウェールズの毛織物から、起毛した綿の布へ
フランネルは17世紀ごろから作られるようになり、19世紀にはウェールズのニュータウンやランイドロイスといった町で生産されていたと記録されています。羊毛の繊維をくしけずってそろえる「梳毛(カーディング)」の工程が機械化されたことが、生産の広がりと深く関わっていたようです。
やわらかさを生む方法はいくつかあります。細い金属のブラシで表面をこすり、繊維を起こして毛羽を立てる「起毛」がその代表です。起毛をしない場合でも、ゆるく紡いだ糸を使うことでやわらかな風合いが出るとされています。
やがて、綿を同じように起毛させたコットンフランネル(綿ネル)も作られるようになりました。片面または両面を起毛させた綿の布で、ウールよりも手入れがしやすく、洗濯にも向いています。いま古着屋で見かけるネルシャツの多くは、この綿のフランネルで作られたものです。
作業着からストリートの服へ
アメリカでは、南北戦争のころに、フランネルが安価で丈夫な素材として兵士の上着や肌着に使われ、広まったとされています。その後、フランネルのシャツは屋外で働く人たちの作業着として定着し、木こりや農作業、鉱山で働く人の服というイメージと結びついていきました。
1990年代のはじめには、アメリカ北西部のバンドが中心となった「グランジ」と呼ばれる音楽とともに、チェック柄のフランネルシャツが若者の服として広まったといわれています。作業着として安く手に入り、着心地のよいシャツが、そのままステージや街の服になりました。
なお、「ネルシャツ=チェック柄」と思われがちですが、フランネルはあくまで生地の名前です。無地のフランネルシャツもありますし、チェック柄のシャツがすべてフランネルというわけでもありません。
古着のネルシャツを長く着るために
ネルシャツは、形がシンプルで流行に左右されにくい服です。数十年前のものでも、いまの服と合わせやすいことが、古着として長く出回っている理由のひとつと考えられます。着込んで毛羽が落ち着いた生地は、新品とは違うやわらかさを持っていることもあります。
起毛した布は、こすれによって毛玉ができやすく、乾燥機の熱で縮みやすい面もあります。裏返して洗う、自然に干す、といった手入れで、毛羽の風合いを保ちやすくなります。肘や袖口が薄くなってきたら、当て布やダーニングで補修することもできます。
新しく買うことが悪いわけではありませんが、すでにある一枚を選べば、新たに綿を育てて布を織る負荷を使わずに済みます。今年の冬は、誰かが着込んだネルシャツから選んでみるのもよいかもしれません。
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