グッドイヤーウェルト——底を替えて履き続ける靴のつくり
靴がだめになる理由の多くは、底がすり減ることです。その底だけを外して縫い替えられるように作られた靴が、150年以上前から存在しています。
服の寿命の話をしていると、足元のことが抜け落ちがちです。けれど靴は、衣類のなかでもとりわけ捨てられやすいものだと言われています。理由はわりあい単純で、一番先に傷む部分が、一番交換しにくい場所についているからです。地面と擦れ合うアウトソールは確実にすり減ります。そこが薄くなった時点で、多くの靴は役目を終えます。
ところが、その底だけを外して新しいものに縫い替えられるように設計された靴があります。グッドイヤーウェルト製法と呼ばれるつくりです。
甲と底が、直接つながっていない
この製法の要は、ウェルト(細革)と呼ばれる細長い革のひもです。まず中底の裏側にリブと呼ばれる立ち上がりを作り、そこに甲革とウェルトを「すくい縫い」で縫い合わせます。次に、そのウェルトとアウトソールを「出し縫い」で縫い付けます。縫い目がふたつに分かれているので、複式縫いとも呼ばれます。
つまり、甲革とアウトソールは直接つながっていません。あいだにウェルトという中継ぎが一枚入っています。だから外側の出し縫いだけをほどけば、甲の側にはいっさい針を入れずに底を外すことができます。これが、いわゆるオールソール(靴底の全交換)を何度も繰り返せる理由です。英語圏の資料でも、甲革が生きているかぎり繰り返し底を替えられる構造だと説明されています。
中底とアウトソールのあいだにできる空洞には、コルクなどの詰め物が入ります。履くうちにこのコルクが体重で沈み、その人の足裏の形に近づいていくとされます。履き込むほど馴染むと言われるのは、このためのようです。
1860年代のアメリカで生まれた
この縫い方を機械で行う仕組みは、19世紀後半のアメリカで形になりました。基礎になったのは、1862年にオーギュスト・デストゥイが考案した、湾曲した針で縫うミシンだとされています。この機械は1869年以降に改良が重ねられ、その改良にあたったのがデストゥイと、イギリス人技師のダニエル・ミルズでした。
ふたりを雇っていたのがチャールズ・グッドイヤー・ジュニア——加硫ゴムで知られるチャールズ・グッドイヤーの息子です。彼は1871年に、ニューヨークの靴製造業者ジェームズ・ハナンが持っていた1869年の特許を買い取り、資金を投じて機械の欠点をつぶしていったと伝えられています。製法に残っているのは、発明者ではなく出資者の名前というわけです。
完成した機械は、イギリスの靴産業にも渡りました。1840年ごろには1,800人を超える靴職人がいたとされるノーザンプトンでは、各社が新しいウェルト製法を学びにアメリカへ渡ったと記録されています。1829年創業のトリッカーズは、イギリス最古の靴メーカーとされ、この製法をいち早く取り入れた一社だと紹介されています。
年間約239億足という前提
いま世界で作られている靴の量は、World Footwear Yearbook 2025 によれば2024年で約239億足です。その約88%がアジアで生産され、中国だけで約130億足とされています。ひとりあたり年に3足ほどが新しく生まれている計算になります。
この規模のなかで、靴のリサイクルはまだ簡単ではありません。一足のなかにゴム、樹脂、発泡材、布、接着剤、金具が混ざっていて、素材ごとに分けることが難しいからです。多くの靴は接着でアウトソールを貼り付ける製法で作られていて、こちらは軽く安く作れる代わりに、底が減ったときに縫い替えるという選択肢がありません。
グッドイヤーウェルト製法の靴は、手間がかかるぶん製造コストが高くなると指摘されています。そのうえ、近年の量産品では中底のリブを革から削り出さず、布地のリブを接着して作ることが一般的で、ここが傷むと修理の難度が上がるとも言われます。「この製法なら必ず一生もの」という話ではありません。
直せる前提で作られているか
それでも、この製法がひとつの考え方を形にしていることは確かだと思います。ものが壊れる場所は、たいてい最初からわかっています。わかっているなら、そこを交換できるように作っておく。そういう設計が150年以上前にすでにあった、ということです。
古着屋や中古の靴の棚に、底を打ち替えられた革靴が並んでいることがあります。甲の革だけ深い色に育っていて、底は新しい。あれは持ち主が変わっても寿命が途切れなかった靴です。新しい靴が悪いわけではありませんが、すでに世の中にある一足が次の10年を歩けるなら、その分の資源はまだ使わずに済みます。
靴を選ぶとき、履き心地やデザインのとなりに「直せるかどうか」を置いてみる。グッドイヤーウェルトという名前は、そのための目印のひとつになりそうです。
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