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アットゥシ——樹皮の糸で織るアイヌの衣

オヒョウなどの木の内皮から糸をつくり、腰機で織り上げるアットゥシ。山で樹皮を剥ぐところから始まる布は、北海道平取町二風谷で、母から娘へと受け継がれてきました。

/ FURUGI LOOP 編集部 / 受け継がれる布・民族衣装

木の皮から、着るための布をつくる。アイヌの伝統的な衣服のなかで、もっとも身近なものとされてきたのが、樹皮衣アットゥシです。材料はオヒョウやシナ、ハルニレといった木の繊維。山で木の皮を剥ぐところから始まる仕事は、いまもアイヌの人々を中心に受け継がれています。

オヒョウの木から始まる布

アイヌ文化振興・研究推進機構(現・アイヌ民族文化財団)がまとめた再現マニュアルによると、アイヌが衣服に用いた素材は、動物を使ったものと植物を使ったものに大きく分かれ、本州や大陸からもたらされたものもあったとされています。そのなかでアットゥシは、代表的で最も身近な衣服と紹介されています。

主な材料は、アイヌ語でアッと呼ばれるオヒョウという木です。樹皮は春から秋まで採れますが、木に水分の多い春先から夏ごろがいちばん剥がしやすく、乾いた冬場はきれいに剥げないといいます。木は節や枝の少ない、直径15〜20cmほどのものがよいとされています。根元近くにナタを入れて内皮を少し噛み、ぬめりを確かめてから選ぶという手順も記されています。

立ち木から幅7〜8cmほどで、梢に向かって長く剥ぎ上げていきます。まっすぐ同じ幅で長く剥げた樹皮ほど、長くて丈夫な糸になるそうです。斜面での作業が多く、男性にとっても重労働だったとされています。

煮て、洗って、裂いて、撚る

剥いだ樹皮はその場で硬い外皮を削り取り、内皮だけにします。オヒョウの内皮は薄い層が何枚も重なっていて、木灰を入れた湯で数時間煮ると軟らかくなり、層ごとに剥がれるようになります。古くは温泉に晒したり、沼に数週間沈めたりして軟らかくする方法もあったと書かれています。

煮た内皮は流水でぬめりを洗い流しながら薄く剥ぎ、2週間ほど天日に干します。日に晒すことで赤茶色が抜け、雨に当たって色がならされていくそうです。乾いた内皮は湿気のない場所なら何年でも保存できるといいます。

糸にするときは、内皮をもう一度湿らせてできるだけ薄くし、2〜3mmの幅に裂きます。それを指で軽く撚って、太さ1mmほどの糸にします。短い糸は小さくほどけにくい「機結び」でつなぎ、一本の長い糸にしていきます。マニュアルには、たとえ短い糸でも根気よくつないで大切に使ってきた、という趣旨の記述があります。乾いた内皮約1,500gから余分な繊維を除くと、一着分に必要な約1,200gの糸になるそうです。

短い糸も捨てずに結んでつなぐ。一着の衣は、何千回もの「つなぐ」でできている。

腰機で織り、木綿布と刺繍で仕立てる

アットゥシを織るのは、アットゥシカラペと呼ばれる織り機です。部品がそれぞれ分かれていて、縦糸を張った先を織り手の腰につなぐ、最も古いタイプの機織り具と言われています。織り手は体を前後に動かして縦糸を張ったりゆるめたりしながら、横糸を通していきます。再現マニュアルの例では、縦糸を約9mの長さで210本、上下合わせて420本張っています。

織り上がった反物は直線で裁って仕立て、裾や袖口、衿のまわりを紺色の木綿布で覆います。その上に、幅の違う木綿布を帯状に縫いつける「切り伏」で模様をつくり、黄色・白・赤紫の木綿糸で刺繍を加えていきます。樹皮の布と木綿の布が一着のなかで組み合わさっているのも、アットゥシの特徴のひとつです。

マニュアルには、自らの手で織り、刺繍したこの衣を夫や成長した子どもに着せることが、アイヌの女性にとって大きな誇りだったとも書かれています。

二風谷に受け継がれる「二風谷アットゥシ」

北海道日高地方の平取町二風谷では、沙流川流域の森に育つオヒョウなどの内皮から糸をつくり、アットゥシが織られてきました。平取町によると、2013年3月8日、「二風谷アットゥシ」は木彫りの盆「二風谷イタ」とともに、経済産業大臣が指定する伝統的工芸品になりました。北海道で初めての指定です。

町の紹介では、アットゥシは水に強く通気性がよく、天然繊維としては際立って丈夫な布とされています。いまでは着物のほか、半纏や帯、小物にも仕立てられています。

木を選び、皮を剥ぎ、煮て、干して、裂いて、撚って、織る。どの工程にも時間がかかるからこそ、できあがった布は大切に着られてきたのでしょう。手元の服にも、目に見えない誰かの時間が含まれています。そのことを思い出すと、一枚の服を少し長く着る理由が見つかるかもしれません。

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